にぐちの日々と備忘録

地方でそこそこ楽しく暮らしてるにぐちが、考えてることを駄々流しにする場所です。ぐだぐだ考えてることを文字にしています。趣味は旅行と観劇。そうです、現在絶賛大打撃中。

畜産がなんで大変なのか考えてみた件

JA全中 黒毛和牛10,000円分を5,000名様にプレゼント』

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みなさんはどんなときに和牛を食べますか?

覚えている方、応募した方、いらっしゃるでしょうか。私はTwitterで知って応募しました。「発送をもって当選とします」という文言に、倍率どれくらいなのかなあ…思いながら応募したことを思い出します。

当落なんて忘れること3週間。クロネコヤマトから一通のメールが届きました。

JA全中より荷物のお届けがあります』

なんと当選。黒毛和牛ロースステーキ200g×4枚が届くことに。美味しい国産牛!!!と一気にテンションが上がりました。サーバーが落ちるほどの応募があったとニュースになっていましたので、相当な応募があったものと思います。(一説には応募者総数10万人、という話も。)無料で黒毛和牛が当たったのはとても嬉しいことなのですが、同時にこうも思いました。

『なんでこんなキャンペーンをしなければいけなかったんだろう?』

言葉が悪いようですが、私が思ったことをそのまま文字にするとこうなります。そして畜産関係のニュースを見ると、子牛価格・枝肉価格の低迷、和牛相場の急落、乳製品の供給過多、などお世辞にも明るいニュースは見当たりません。(一方で消費喚起のメッセージは消費者に比較的快く迎えられているように思います。)

なぜ、今畜産はこんなに大変なんだろう?

コロナだから、で済ましてはいけない気がしたので、調べて考えてみました。

 

 

1.JA全中「日本の畜産・酪農応援キャンペーン」

公式HPはこちら↓

https://life.ja-group.jp/cpn/chikuraku/

JA全中が最初のキャンペーンを打ち出したのは2月9日。応募に係る必須事項は、プレゼントの発送に関わる情報と、「畜産農家・酪農家への応援メッセージ」でした。当初はA賞「黒毛和牛ロースステーキ」20名、B賞「黒豚ロースしゃぶしゃぶ用」30名、C賞「国産豚ロース全国ご当地味噌漬け食べ比べ」30名、D賞「国産乳製品詰め合わせ」20名、の計100名。応募締め切りは3月末の予定でした。

しかし3月27日、JA全中はキャンペーンを大幅に拡大することを発表します。このなかで最も大きな拡大となったのがA賞「黒毛和牛ロースステーキ」でした。なんと20名を5,000名(250倍)。その他B~D賞もそれぞれ100名(3.3~5倍)へと拡大されました。締め切りも4月10日まで延長され、3月30日から4月3日までは応募ホームにたどり着くこともできないほど。はがきでの応募も受け付ける事態となりました。

まず、キャンペーンを行う理由は在庫処理。冷凍庫の容量を空けることが目的です。3月27日の時点で枠を拡大したと言うことは、その時点で冷凍庫は一杯に近かったということ。緊急事態宣言が発令されたのは4月7日のため、なぜ売りさばけるはずの牛肉が売れずに冷凍庫を圧迫していたか、という問いに対する答えは、コロナによって国内の飲食店が休業したから、だけではないことがうかがえます。

2.2019年後半から2020年3月にかけての和牛枝肉相場

 ここで和牛枝肉相場の動きをみると、11月の時点で2018年度、2017年度とは違った動きをしていることが明らかになりました。特に12月には例年2,600円/kg以上の価格をつけるはずが、2019年度は2,300円/kg付近。また、12月から1月にかけて一旦落ち込むものの、3月には回復し始める、というのが例年の動きなのに対して、2019年産は回復することなく、3月には2,000円/kgを割り込んでいます

新型コロナウイルス感染症の発生が明らかになり、ロックダウン等により人の行き来に制限が行われ始めたのは2020年になってからであることを踏まえると、1月以降の枝肉価格の落ち込みは、①訪日外国人数の減少に伴う牛肉、とくに和牛の需要停滞、②外出自粛要請による外食需要の停滞、③各国・地域の都市封鎖に伴う輸出減少(2月の牛肉輸出が前年比11%減)、の3点から発生していると考えられます。つまり、1月以降の落ち込みに関しては、コロナの影響が色濃く反映されているものと推測できます。では、11月から12月の落ち込みは一体何だったのでしょうか。

3.消費税増税

2019年10月1日に消費税が10%になりました。外食は10%なのに対して、テイクアウトは8%という変則的な増税だったため、外食産業は低迷傾向がみられ、中食産業は伸びています。このような消費者の生活防衛によって、一般消費者による和牛の消費が落ち込み、また、精肉ギフトなど需要も落ち込んだことで、牛肉というよりも和牛の消費が停滞したと考えられます。つまり、11月から12月の落ち込みは消費税増税によるものと推測されます。

4.子牛価格の高騰

和牛は子牛を家畜市場で購入し、約20ヶ月間肥育して出荷します。2020年1月に出荷する場合、購入時期は2018年4月と考えられます。2018年4月の肉用牛取引価格は約77万円/頭(平均)でした。一頭から取れる肉の量を250kgと仮定したとき、2,300円/kgでは一頭約57万円一頭当り20万円も赤字になるという試算です。子牛価格は2012年以降上昇傾向にあり、2018年から2019年にかけても75万円/頭~80万円/頭の間で推移しています。つまり、高値の時に購入した子牛を安く売っているという状況にあると言えます。枝肉価格が落ち込んでも、元が取れれば問題ないですが、現状元が取れていないため問題になっています。

※肉用牛肥育経営の収益性が悪化した場合には肉用牛肥育経営安定特別対策支援事業(牛マルキン)があるため、畜産農家セーフティーネットは存在しています。

5.まとめ

なぜ畜産はこんなに大変なのか、という問いに対して、JA全中から黒毛和牛を頂いたことをきっかけに牛肉の視点から接近してみました。私は畜産が大変な理由を以下のように理解しました。

1.新型コロナウイルス感染症感染拡大による

 ①訪日外国人数の減少に伴う需要停滞、

 ②外出自粛要請による外食需要の停滞、

 ③各国・地域の都市封鎖に伴う輸出減少

2.増税による

 ①外食産業の低迷

 ②消費者の生活防衛による需要の停滞

3.枝肉価格の低迷による赤字の発生

 

コロナ対応として国民一律10万円の給付が決定しました。決定前は「お肉券」配布という案もありました。お肉券だとしても国が負担する金額はそれなりのものであったと思いますが、国民の考えとは離れていることは間違いありません。お肉券ならお肉しか買えないわけですから、在庫処分もできて畜産農家支援にもなりいいことずくめ、という話だったんだろうと思いますが…ちょっと無理があるなあ…というのが個人的な感想です。

10万円給付して、その中からどれだけの人が、どれだけの額を日本の農業に対して払ってくれるのか考えると、悲しくなるような気もします。(自給率37%ですから…)しかし、豊洲市場ドットコムなどを活用して行き場のない食材を購入する消費者も一定数存在しており、情報拡散によってこれまで知らなかったという人にも届いているような気がします。悲観しているばかりではなく、どうしたら日常の食を支えている農家の人々を買い支えられるか考えなくては、と思った次第です。食べなければ人間死にますからね…。農業は重要な産業であると思いながらも、大きな問題を抱えていることに違いはないので、これからも考えていこうと思います。

 

ちなみに豊洲市場ドットコムのサイトはこちらです↓

https://www.tsukijiichiba.com/

 

 

~参考にした資料のURLは以下の通りです~

食品産業新聞社ニュース 「令和2年1月の需給展望 牛肉」

https://www.ssnp.co.jp/news/meat/2020/01/2020-0110-1119-14.html

JACCネット 「指定市場における子牛価格の推移」

http://jaccnet.zennoh.or.jp/d1110000000/d1110100000/d1110101000/p0642.html

 日本農業新聞 「需要減深刻 和牛過去5年で最安 2000円台割り込む」

https://www.agrinews.co.jp/p50461.html

 農畜産業振興機構 「肉用牛肥育経営安定特別対策支援事業」

https://www.alic.go.jp/c03/shinko04_000010.html